IT技術の進歩により、パソコン1台あればいつでもどこででもほとんどの仕事ができるようになった昨今。そんな中、注目を集めている勤務形態の一つが「サテライトオフィス」での働き方だ。
1990年代にテレワークの先駆けとして流行りつつも、バブルの崩壊とともに下火になっていたサテライトオフィス。しかし最近では再びこの勤務形態を見直す企業も多いと言う。ここでは、企業がサテライトオフィスを設置するメリットを紹介していく。
そもそもサテライトオフィスとは、企業などの本拠地から離れた場所に設置されたオフィスのこと。本拠を中心としてオフィスがサテライト(衛星)のように位置することから、このように呼ばれている。
1988年富士ゼロックスやNTTグループ等が共同で埼玉県志木市に開設した「志木サテライトオフィス」を皮切りに、1990年代の日本社会に一時のブームをもたらしたこの勤務形態。サテライトオフィスの設置目的には、都心の混雑から生じる煩わしさの回避が目的の大半を占めていた。
その後バブル崩壊とともに勢いは衰えたものの、昨今のIT技術の急激な進歩によるテレワークの普及とともに、再び注目を集めるように。東日本大震災などの度重なる自然災害もきっかけとなり、災害時のリスクヘッジや社員のライフワークバランスを考慮し近年その存在意義が見直され始めている。
こうした状況の中、企業が今サテライトオフィスを構える大きなメリットの一つとして言われるが、固定費の大幅な削減だ。
都心にオフィスを構えるとそれだけで莫大な費用がかかる。しかし賃料が比較的安価な郊外に移せば、固定費の大幅削減が期待できる。地域の人材を探すことで人件費も抑えられ、更に社員の通勤にかかる移動費も節約できるなど、企業にとっての経済面でのメリットは少なくない。
同時に大きなメリットと言えるのが、社員の通勤時間の短縮だ。1990年代に見られた人口の郊外流出の波は一段落したとも言われている(※)が、都心部に出勤しているオフィスワーカーの中には、自然の豊かな環境で暮らしたいと思う人も少なくない。また高騰が続く都心部の家賃相場を考え、通勤時間を差し置いてまで郊外を選ぶ人も。
郊外居住の人の中には、オフィスまで2時間、往復で4時間以上かけて通勤している人もいると言う。近場のサテライトオフィスへの出社なら、こうした極端な移動時間を強いられることもない。つまり今まで移動に取られていた時間を、仕事やその他の活動に充てることができるのだ。更に、通勤時の長時間の満員電車から解放され、社員のストレス軽減にもつながるだろう。こうした時間の有効活用は、企業にとっても生産性を上げるための見逃せない利点であることは間違いなさそうだ。
(※)参考:内閣府http://www5.cao.go.jp/j-j/cr/cr11/chr11040201.html
特に東日本大震災をきっかけに問題視され始めた、経営機能の都心部一極集中。ここにもサテライトオフィスの存在意義が語られる。災害などで都心部へのアクセスが絶たれたなどの有事の際でも、サテライトオフィスがあれば通常営業を続けることができる。最悪の場合、本社機能をそのままそこへ移すことも容易だろう。こうした経営機能のバックアップとしても、サテライトオフィスの需要が高まっているようだ。
新たな人材の確保も、サテライトオフィスを構えることで生まれる大きなメリットの一つ。地元から離れられずに都心部の企業で働くことを諦めていた人や、育児や介護で通勤に制限があり長時間の働きができない人なども、サテライトオフィスでは労働の対象となり得る。人が集まることで大きな労働力や新たな雇用が生まれ、地域の活性化をもたらし、地域貢献にもつながる可能性が期待できる。
東日本大震災をきっかけに人々は少なからず自らの生活に立ち返り、オフィスワーカーの中でも、本当に大切なものを見直すワーク・ライフ・バランスを意識する人が増えてきた。人口密度が高く忙しない都心部よりも近場で緑が多くゆったりとした郊外のオフィスの方が、のびのびと気持ちよく働けるという意見も少なくない。サテライトオフィスは、社員の精神衛生上にもプラスの効果をもたらし、ひいては企業の生産性に有効に働く可能性も期待できる。
こうしたメリットの反面、新しくオフィスを構えるにはそれなりのコストもかかるため、中小企業にしてみれば気軽な話ではないのが現実。また自由に働くことに慣れていない日本人の気質から、長期的に見たときに生産性が保てるかという点は考慮の必要があるだろう。しかしこうしたデメリットも踏まえた上で、サテライトオフィスの存在意義に注目する企業は増えてきている。
自分らしい働き方、生き方は人それぞれ。社員一人ひとりがお気に入りの場所でゆったりと働ける環境を考えた時に、このサテライトオフィスは、次世代の勤務形態として欠かせない選択肢の一つになって行くかもしれない。