働きやすいオフィス環境を整えるうえで、欠かせない存在である「照明」。少し前までは、むき出しの蛍光灯の下で長時間のデスクワーク…というスタイルが主流だったように思うが、働き方の多様化に伴い、オフィスの照明も変わりつつある。
今回は、照明がオフィス空間にもたらす効果について考え、作業効率アップにつながる照明について掘り下げたい。
物がよく見えるために必要な5つの条件は、「明るさ・色・対比(対象物の明るさと周りの明るさの比)・大きさ・動き」と言われており、1つでも欠けると見え方が悪くなる、もしくは全く見えなくなってしまう。
特に照明の“明るさ”や“色”は、物の見えやすさを大きく左右する要素である。一方、ここで気をつけたいのは、明るければ明るいほど良いというわけではないという点である。暗い部屋の中で対象物のみを照らすと、かえって見えにくくなってしまったり、その環境下での長時間作業は疲労の原因になったりするからだ。また、天井や壁、床なども部屋全体の明るさに影響するので、この点も配慮する必要がある。
ここで、見え方に支障をきたす「グレア」についても触れておきたい。グレアとは、スポットライトや太陽の光が視界に入ったときなどに感じる不快なまぶしさのこと。グレアの下で作業をし続けていると、目や脳の疲労を引き起こしてしまうため、細かい作業などを行う際には考慮したい現象である。
こうした場合、グレアを抑制できる機能がある照明器具を使用することが望まれる。しかし、照明にシェードやカバーを取り付けるだけでもグレア対策は可能だ。
照明の効果は、対象物を照らすだけではなく、空間の雰囲気づくりにも大きく影響するということは言うまでもない。
オフィスにはデスクが並ぶ作業スペースの他にも、エントランスや会議室、応接室など様々な空間がある。また最近は、社員がリフレッシュできる空間を設ける企業も増えている。社員たちが生活の大半をオフィスで過ごすことを考えれば、どの空間も居心地のよいものにしたいものだ。たとえば、作業スペースは明るく爽やかで、かつ集中しやすい雰囲気に、エントランスは会社のイメージを作る大切な場所なので落ち着いた雰囲気に、また、休憩ルームではリラックスできる和やかな雰囲気に…というように、その空間の目的に合った雰囲気づくりを意識するべきであろう。
では、照明によって雰囲気はどのように変わるのだろうか。
ここで最も大きく影響するのは、照明の「色」である。
照明の色は“昼光色”“昼白色”“電球色”の3タイプに分けられることが多い。一般的に、昼光色は青白く、清潔ですがすがしい雰囲気になり、オレンジ色の強い電球色を使うと、落ち着いたあたたかい雰囲気になると言われている。昼白色はこれらの中間をとった雰囲気だ。
ちなみに、明るさを示す「ルクス」という単位はご存知だろうか。これは、1平方メートルの広さがどれ程の明るさで照らされているかということを表すもので、たとえば太陽光は100,000ルクス以上、月明かりは1ルクスと言われている。手芸や裁縫などに適した照度は750~2,000ルクス、読書や勉強は500~1,000ルクス、人々が団らんするなら150~300ルクスなど、シーンにより基準とされる照度の指標も。一般的なオフィスは750~1,000ルクスが望ましいと言われている。
なお、電球色よりも昼白色、昼光色の方が覚醒レベルが高くなりやすい。これらの光の下で2時間以上にわたって作業をすると、疲労がたまり集中力が落ちていく傾向にある。作業効率を上げるためには、昼光(白)色と電球色の切り替えが可能な照明器具を選ぶのも1つの方法である。
空間の雰囲気づくりには照明選びが鍵となってくるが、一昔前の“蛍光灯むき出し”の照明器具では、明暗や色の微妙な度合いを調整することが不可能であった。また、オフィス全体に白く明るい照明を使うことにより、社員の疲労が蓄積してしまい、集中力がもたず、作業効率が悪くなるということも。
ところが、オフィスにPCが導入されると、画面に照明器具が映り込んでしまうようになったため間接光による照明が採用されるように。しかし間接光のみでは部屋全体を明るく照らすことができず、部屋の照明と作業するデスクのための照明を分離するようになった。こうすることで、明るさや色の様々なパターンを作り出すことが可能になり、照明によってオフィスの雰囲気を変えることができるようになったのだ。
このような、周囲(アンビエント)の照明と作業上の書類など(タスク)のための照明を分けて考える方法を「タスク・アンビエント照明方式」という。
「タスク・アンビエント照明方式」の具体的な方法としては、まず天井からオフィス全体を照らしている照明を“程よい明るさ”まで弱める。アンビエント照明では、オフィス全体の雰囲気を統一する効果があるので、ここではあたたかい色味の照明を選ぶことができるだろう。
天井からの全体的なベースの照明が決まったら、次にデスクを照らすタスクの照明を設置する。こちらは部分的に照らすための照明なので、見やすさを重視した白い照明を用意する。
このタスク・アンビエント照明方式では、照明の切り替えが可能なため、社員自身の状況に合わせた照明の選択ができるのがポイントだ。またそのタイミングも自身で決められるので、業務の効率化も期待できるだろう。さらに、全体の照明の数や明るさを抑えられるので、省エネの観点からも昨今注目を集め始めている照明方式だ。
オフィスの業務効率化のためには、社員にとって居心地のよいオフィス環境であることが大切だ。そして、快適なオフィスづくりには「照明」が少なからず影響している。今回紹介した「タスク・アンビエント照明方式」はとても合理的な方法であり、知的生産性の向上や節電・省エネ効果など、企業にとって多くのメリットをもたらすことが期待できる。オフィス環境を見直す際には、ぜひ「照明」についても考えてみたい。
参考文献リスト
〇結城未来:照明を変えれば目がよくなる,PHP新書,pp175-177,2014
〇伊藤安雄:おもしろいオフィス照明のはなし,日刊工業新聞社,pp31-50,1991
〇建築空間照明計画研究会:住まいの照明設計,秀和システム,pp26-27
〇照明を変えるだけで従業員の業務効率が大幅に上がる!正しい照明の選び方