サテライトカフェスペース、パーテーションのない空間、まるで公園のような休憩スペース…。最近では、これまでのオフィスイメージを一新するようなデザインのオフィスがメディアでたびたび取り上げられ、注目されている。おしゃれなオフィスは、その空間にいるだけで仕事へのモチベーションも上がりそうだ。しかし「働きやすさ」という点では、実際のところどうなのだろうか。今回は、働きやすいオフィス環境の特徴とそのデザインについて考えていきたい。
オフィスデザインとは、オフィスの移動や改修の際に、従業員が快適に働けるような空間を創り出す取り組みである。従業員が快適に働くことができる空間を考えるにあたり、具体的には、
・従業員へのヒアリングなどにより現在のオフィスの問題を把握すること
・新たなオフィスに求める条件やコンセプトを決めること
・オフィス内での従業員の動線を考慮すること
・オフィス空間の区切りと使用方法を決めること(ゾーニング)
・それぞれのスペースのレイアウトを決めること
・家具や什器を選定すること
などの作業が必要となる。
大手企業や成長中の企業は、オフィスへの投資も惜しまず、機能的で美しいオフィスを構えていることが多い。優れたオフィスデザインは、企業にどのようなメリットをもたらすだろうか。
従業員の動線に合わせたオフィスや、従業員が静かな環境で作業できるオフィス、あるいは従業員がリフレッシュできるオフィスでは、従業員は集中して仕事をし、一日を快適に過ごすことができる。これにより、従業員の作業の効率や質が上がり、創造性が求められる職場であればアイデアを出しやすくなる。
従業員にとって作業しやすいオフィスや、リフレッシュできる設備のあるオフィスであれば、従業員は職場での時間を快適に過ごすことができる。また、デザイン性の高いオフィスであれば、従業員のモチベーションや会社に対する愛着が上がる。すると、従業員の満足度が上がり、入社後の定着率の向上が期待できる。さらに、従業員の満足度の高い職場は、求職者にも選ばれやすい。
近年、従業員同士のコミュニケーションを活発にするようなオフィスデザインがトレンドになっている。特に、個人での作業をリモートで行う従業員が増えたコロナ禍以降、来社時の従業員同士のコミュニケーションを重視する企業が増えたためである。工夫を凝らしたオープンスペースや会議室により従業員のコミュニケーションが活発になれば、従業員はよりアイデアを出しやすくなり、ストレスも軽減される。
機能的でデザイン性の高いオフィスには様々なメリットがある。しかし、従業員が日々仕事をする場として、最低限満たすべき要件が存在する。また、よく考えられたデザインであっても、実際に機能するとは限らず、かえって従業員の働きやすさを損なうこともある。企業がオフィスデザインを考える上で、注意しなければならない点には、どのようなものがあるだろうか。
消防法などの法令を遵守し、従業員が安全に働ける空間を作ることは、全ての企業に要求されることである。もちろん、オフィスを設計する際は、建築会社やデザイン会社において法令に適合したデザインが作成されるだろう。しかし、オフィスを利用する企業としても、地震の際に家具が倒れないようにする措置を講じたり、避難や消火の妨げにならないように家具を配置したりする必要がある。
デザイン性の高いオフィスや経済的合理性を追求しすぎたオフィスは、実際に働く従業員にとって作業しにくい空間になってしまうことがある。そのような結果にならないために、従業員の業務内容や現在のオフィスの満足度などを把握し、新しいオフィスでの動線や作業の仕方を考慮してデザインを作成する必要があるのだ。
従業員がコミュニケーションをとったり、リフレッシュしたりすることができる空間が多いオフィスは従業員の満足度が高いことが多い。しかし、個々人で作業するスペースを減らすと、従業員が集中して作業できる空間が減ってしまうので、注意が必要である。特に、静かな空間の作業が捗る人も多いので、一人用の作業机や、個別ブースなども一定数設けることも重要である。オンラインのミーティングなどにも活用できる、防音タイプの個室を設置する企業もある。
働きやすさのバロメーターとしては、「コミュニケーションの取りやすさ」「集中しやすさ」「ストレスのない移動」などが考えられる。なかでも「コミュニケーションの取りやすさ」は、多くの労働者が重要なポイントと捉えている(アンケート調査)。
まずは、これら3つのポイントに配慮したオフィスデザイン事例について、それぞれ見ていきたい。
最初に、コミュニケーションの活性化を促すデザインを具体的に紹介する。
日本の典型的なオフィスの風景というと、部署やグループごとにデスクを向かい合わせる「島型対向式レイアウト」が真っ先に浮かぶ。しかし、最近では「フリーアドレス(=自由席)」というオフィススタイルを取り入れるオフィスも。これは、社員個々の自席を設けず、在社している社員が自由に席を選択するという制度である。
事業用不動産を手掛けるグローバル企業CBREの日本法人東京本社は、フリーアドレスを導入。立ったままミーティングできるハイテーブルやガラスドアで仕切られた個室など、様々なタイプのワークスペースを設ける同社。社内アンケートでは約9割の社員が、固定席で仕事をするよりもフリーアドレスの方が生産性の向上を感じた、という結果が出たそうだ。部署間のコミュニケーションも促進され、会社自体の売り上げにも結びついたのだという。
(参照 https://www.businessinsider.jp/post-108159)
カフェスペースを設けるオフィスデザインも最近のトレンドなのだそう。お菓子やドリンクサーバーが設置され、誰もが気軽に利用できるカフェ。自然と人が集まる空間では、部署を超えたコミュニケーションの活性化が期待できる。
モバイル向けのゲームコンテンツやインターネット広告事業などを手掛けるこちらの企業は、オフィスのデザインもクリエイティブ。エントランスホールの左手に設けられたカフェスペースでは、バリスタによる本格的なコーヒーが楽しめるという。社員からの人気も高いようで、打ち合わせや商談など、様々な用途で利用されている。
(参照 https://www.shigotoba.net/drecom_1703_1_shanainibarista.html)
次に、集中力アップが期待できるデザインを具体的に紹介する。
無機質な会議室で行われる長時間のミーティングは、どうしても集中力が途切れがち。そんな会議室のデザインを見直し、様々なデザインを取り入れる企業も増えているという。なかでも人気なのが「ファミレスシート」。その名の通り、1つのテーブルを背もたれの高いソファーベンチで挟んで座るというファミリーレストランで見かけるような半個室タイプのデザインだ。
美容系サイト「@cosme(アットコスメ)」の企画・運営で知られるこちらの企業。本社オフィスに設けられる「ファミレスブース」は、社内で人気のミーティングスペースとなっているという。「いかにも会議という、かしこまらない雰囲気づくり」を実現したこの空間では、ミーティングでの会話も弾みそうだ。
(参照 https://www.shigotoba.net/istyle_1703_1_atcosmewounneisuru.html)
忙しい仕事の合間にちょっと休憩できる「リフレッシュスペース」の導入はもはや定番になりつつあるが、快適さだけでなくエンターテインメント性にこだわったスペースをつくるのも人気だという。仕事で行き詰まったときに、リフレッシュスペースに足を運ぶことで新しいアイデアが湧くといった好意的な意見が多く、企業によって様々な工夫が見受けられる。
クラウド会計ソフトを手掛けるこちらの企業。リフレッシュスペースには、様々なサイズのデスクや、立ちながらミーティングができるカウンターのほか、卓球台などの娯楽グッズを置くといったユニークなアイデアが採用されている。人が集まりやすいスペースにしたことで、コミュニケーションの活性化も期待できそうだ。
(参照 http://designers-office.jp/work/page/index.php?cat=1&type=4&id=208)
ここでは、オフィス内の動線を考えたデザインを具体的に紹介する。
オフィスデザインを考えるうえで、動線の確保はとても大切な要素だ。複雑な動線にすると作業効率が悪くなり、生産性の低下を招くおそれがある。コピー機や共有スペースなどの配置はもちろん、ICTの活用やゾーニングの工夫によっても快適な空間を作ることが期待できる。
オンラインゲームなどのソーシャルアプリケーション事業を手掛けるこちらの企業。共用エレベーターでの待ち時間を減らすために、オフィス内に階段を造ったのだという。移動のストレスを軽減し、時間を有効活用できるようになったことで、生産性の向上が期待できそうだ。
ここまでは、「働きやすさ」のバロメーターに沿ってオフィスのデザイン事例を見てきた。これらを踏まえ、「本当に働きやすい環境」をデザインで叶えた事例を一つ紹介したい。
出典・事例詳細:事務所デザイン.COM
デザイン: 株式会社フロンティアコンサルティング
システム開発事業やクリエイティブ事業、コンサルティング事業を展開するこちらの企業。ワークスペースには、通常の固定席のほか、フリーアドレスや、「かまくら」とよばれるファミレスブースなど、あらゆるスタイルの席が用意されている。
また、休憩や打ち合わせなどに利用できるバースペースやカフェスペースを設け、コミュニケーションの取りやすい環境をデザイン。その結果、どのような勤務形態の社員にとっても働きやすいオフィス環境となったそうだ。
さらには、もともと3つのフロアに分かれていたオフィスを1つのフロアに集約したことにより、客先に常駐しているエンジニアにとって「帰ってきたくなる場所」になったという。全ての社員にとって居心地の良いオフィスは、「本当に働きやすい環境」と言えるのではないだろうか。
見た目のおしゃれさだけでなく「働きやすさ」も叶えてくれるオフィスデザインは、会社の生産性向上を実現する大切な要素の一つ。より良いオフィス環境作りは、企業のブランディングにもつながる大きなポイントとも言えるだろう。社員目線のアイデアや、会社の体質にマッチした様々なアイテムを取り入れ、そこで働くのが楽しくなるようなオフィス作りを心がけたいものである。